パンをふんだ娘

いろいろ考えている子どもだったが、
意地悪だった。

母をして「底意地が悪い」「鬼娘」「悪魔の子」と言わしめるほど。
(母も鬼であり悪魔だったか…)

どうしてあんなに意地悪だったのだろう。
はっきりしていることは、
「人が顔を歪める瞬間を見るのが好き」だったことで、
事実、そう発言して人をたじろがせていた。
(そんなたじろぎも大好物)
幼少からサディズムが芽生えていたのだ。

母がそんな私を戒めるためにしたこと、
それは「アンデルセン童話」を聞かせたことだ。

忘れもしないあの日、
私が小学校から帰って来ると、
母がご機嫌で「あなたにぴったりの話が、『おはなしでてこい』でやってたから録音したわ!聞いてちょうだい!」
と興奮気味に言っている。
もう香椎邦子おばさんの「おはなしでてこい」(NHK)は聞かなくなっていたが、
そんなにいい話なら聞いてみようかな。
ステレオのスピーカーの前で座って聞いた。

その話は「パンをふんだ娘」
高慢な娘インゲルが、水たまりの前で自分のドレスを汚したくないためにパンを投げてふんだ時、
底なし沼に沈み地獄に落ちる、という恐ろしい話だった。
母はあんなに笑いながら私にこんな話を聞かせたかったとは。
スピーカーの前で真っ暗になった。

外はとてもよく晴れていてのどかだった。

きっとその日から、
私は改心しようと思いはじめたのだ…。