なめこ事件

なめこで命を落とすところだった。
警察からの電話は、まるで生死をさまよっているかのように思わせた。

なめこストラップよりなめこシールがブーム。
近所のファミマのレジカウンターで申告制で買わなければならない。
過剰人気で規制がされているのだ。
前々日購入、前日売切れで泣く。
昨日も友だちと買いに急ぎ、
横断歩道のないところを渡ろうと飛び出した。

バスが来ていた。
接触したというより、
急ブレーキで止まったバスに触れた程度らしい。

帰りの電車の中iPhoneに電話。
留守電にして聞いてみる。
ピーポーピーポーというサイレンの音、
「成城警察署の○○です、今娘さん△△さんは交通事故で負傷し成育医療センターに向かいます」

心臓がバクバクした。
体がガタガタ震えてきた。
呼吸もおかしくなる。
震える手で夫にメール。
もう一度留守電を聞き直すと右手を負傷とのこと。
右手だけで済んだのか、
あぁ右手は失ったんだ…と思う。

電車を降り、夫に電話すると、
「今病院と連絡とれた、バスにぶつかったみたいだけど、意識はある。声聞いたけどピンピンしてる気がする」
バスにぶつかった!?
ピンピンしてる!?
何が何だかわけのわからぬまま病院に駆け込むと…
ピンピンしていた。
何事もなかったように座っていた。
かすり傷すらなかった。
お医者さんの話でも、検査もする必要もない、後遺症も出る可能性もほぼない、とのことだ。

少し触れた程度でも接触事故、
バスは報告義務があるとのこと。
乗客の方からは「救急車なんて呼ばなくていいじゃない」との声もあったらしい。
義務は義務、警察にも連絡して、現場検証、代替バス手配などなどがされていたようだ。

この辺は細い道が多く、バスの運転も技術がなければ難しい。
あと一秒でも遅れたら…
バスじゃなかったら…

現実は、なにごともなさすぎて不思議ですらあった。

バス会社の方と一緒に警察へ行き、事情聴取、供述調書を作成との話だったが、
その必要もなくなった。
人身事故扱いも取消。

不幸中の幸いと言うのか。

今朝、登校友達がやって来て言う。
なめこシール明日夜入荷だって」
ガックリとしていた。
まだ懲りてないようだ。
明日はまた別の友だちと「なめこごっこ」をするらしい。