ジェロニモ

ジェロニモとは「めくらのジェロニモ」(少年少女世界文学全集)だ。
その話を読んで絶望的な気持ちになった。
眠れない夜など、
真っ暗闇になった部屋の中で、
目が見えなくなったら…と時々考えた。

小学校の頃から、視力は極端に悪い。
「自分より目の悪い人に初めて会った」
とよく言われてきたので、
相当悪いのかもしれない。
今はもう測定できないそうだ。
老後、災害時などのことを考ると不安でいっぱいだ。
死ぬ直前はもう見るものもないだろうか。
祖母は晩年耳が聞こえなくなったが、叔母によると、
その歳になってくると、
人の話も聞かなくなっており、
ほとんど不自由しないということだ。

目の話に戻そう。
次元は違うが、明らかに私よりも目の悪い人はいる。
同じマンションの全盲の女性だ。
毎日出勤し、バスにも乗り、電車にも乗っている。
視覚以外の四感を駆使して、快活に行動しているのだ。
誰かが手を貸し一緒に歩いていることも多い。
彼女は清潔感があり、いつも笑顔だからだ。
私も真似しようと何度か「大丈夫ですか?」と言ったことはあるが、
いつも、「大丈夫です。ありがとうございます。」と笑顔でおっしゃる。
私は子連れなことが多く、気付かれているようだ。
たぶん「一緒に歩きましょう」「手をどうぞ」
と、もっと積極的に行かなくてはならないのだ。
手を貸すことができず、少し心配で見ると、
実に巧みな動きに秘かに感心してしまう。
集合ポストでも、はじから縦横、手でさっと数回触れ、
位置を確認して自分のポストを開けている。
なんだってできそうだ。
この世は暗闇なんかではないのだ。
きっとものすごく努力しているのだろう。
そんな苦労すら見せない笑顔で、
今日も彼女は歩いている。