同行

結婚の報告を聞くや否や、母は「逃げられる」と不安になる。
母には、負という負が取り巻いていて、正は戸惑わせるものなのだ。

かつて、逃げられたのだろう。
「ハンサムな人と結婚するはずだった、アナタ達も容貌がもっとよかったかもしれない」と母は常々言っていた。
父は平凡な顔立ち。
母は黙っていればかなりの美人と言えたが、
私達はそうでもなく、「ハンサム」なお父さんを時々思ったりした。

母は出かける時は何かと私が同行。
4人姉妹の中で私は一番安全パイなのだ。
子どもがいると面倒なつきあいからも逃れられる。
同窓会か何かの時、母が「ハンサム」な人と母らしからぬヒソヒソ声でずっと話していたことがある。
この人かもしれない 、と密かに思った。

母は、妹の結婚話もスンナリ聞かくことができず、モロモロがイザコザ。
式一つとっても。
入学式でさえ途中で帰り、式という式は欠席、お葬式以外を嫌悪しているのだ。
おそらく「式」にこだわり過ぎている。

方向性を変えて懐柔策。
正面ではなく、反対側から斜めから、言い回しも変えて見る。
あっちペラペラこっちペラペラと言いくるめる。
結局なんだかんだで、とうとう私も結納に同行することになった。

かつて、いつも同行していたように。
表向きは、父の代わりだが、監視役。
母が逃げ出さないように。


夫祖母からは北海道の便り。
夫祖母は結納したのだろうか。