抜き専

10ヶ月ほど前、親知らずの痛みに耐えかねて歯医者さんへ行く。

私の場合、難抜歯とされ今まで度々断られてきた。
ずいぶん前も抜く機会があったが、
今まさに抜くという時に、
「念のため聞きますが、明日旅行へ行ったりしないですよね?」と言われる。
顔が倍くらい腫れ、写真をとられるような状態ではない、痛くて旅行どころではない、と。
「明日からインドに行きます。」
で、延期になった。

いろいろな理由をつけて、
どこかみな難抜歯はやりたくないと思っているようだった。

埋れて変な生え方をして腫れ上がった歯をみて、
「今すぐ抜きましょう」と言われた時は耳を疑った。
その後も、残りの3本も、40代になったら体力的にきついですよ、
などと言ってプレッシャーをかけてくる。
全部抜きたくてしょうがない様子だった。

歯医者紹介の冊子にも、得意分野は、親知らずの抜歯、と書いてあった。
抜き専だったのだ。

その歯医者さんは、365日営業で、夜遅くまであいている。
子供の頃、歯痛でつらい時に、あいている歯医者さんがなかったという院長の経験によるようだ。
ミッドセンチュリーモダーンなインテリアで統一されている。
(そのようなソファーは座りにくいと知った。)
次々に支店を開業し、若い院長は「いったいいつ寝ているのか」とスタッフからコメントされていた。

同じマンションで、寝ていた。
歯学会からの郵便物が落ちていたのだ。
通院中で、宛先が聞いたことある名前だと思った。
住んでいる気配はなく、仮眠室だったと思う。
投資用だったかもしれない。
最近駅前にも支店ができ、
先日その部屋は引越し、今日はクリーニング業者がきていた。

向上心あふれる歯医者である。
抜き専の歯医者もいれば、
別の歯医者は、子供の頃、歯医者が嫌いで、診察台に座りたくなく、その横に立つ仕事を選んだという。
感心した。

3本目の抜歯は年明けにする。