イサン

まさか伯母の遺産相続に巻き込まれるとは思ってもいなかった。
伯母は独身で子どももいない。
伯母の兄妹が相続するが、亡くなっている場合は、その子となる。
弟である父は亡くなり、私たち4姉妹にも通達がきた。

顔も思い出せず、相続する心あたりもない。
遠くに住んでいて伯母には1度しか会っていない。
お葬式の世話などした伯父が相続に名乗りでたが、
伯父は多額の借金を伯母も含め親戚じゅうに背負わせたりと問題があった。

おしゃれでイケメンでモテて、父の憧れだった伯父。
仕立て屋をしていて、顧客に政治家も多かったようだが、廃業。
父もいつも伯父の仕立てた立派なスーツを着ていた。
死ぬ直前も兄の状況を聞いて思い悩んでいた。
痩せて体型も変わり、先も長くはないことを知っていて、
スーツは作らなかった。
お金を貸すこともなかった。

お葬式に来た伯父は全く大変なそぶりもなく、
カッコよさそうだった。
カッコつけるとお金がいるんだろう。
ポケットチーフが目立っていた。

伯母の顔は忘れたのに、腕は覚えている。
テーブルに両ひじをつく癖まで父と同じで、父にそっくりの腕だった。

「いっちゃん(父)は甘えん坊で、弱虫で泣き虫で…」
と言って笑っていた。
父も笑っていた。
でも本当は私が意地悪や生意気なことを言うと、
「てるちゃん(伯母)にそっくりだ!」
とよく怒っていたのだ。
私も他人とは思えない。

伯母にはずっと頭があがらなかった父。

伯母に見直してもらえるようなことを、
私たちがしなくちゃいけないんだろう。