疑い

前職では時々紳士服売場へ行った。
平日の昼間に紳士はほとんど現れない。

暇すぎるのか、男子社員は自分の服のディテールにこだわり始める。
袖のボタンは本切羽(本開き)、ジャケットの中もお台場仕立て(内ポケットを表地で囲む)、
かぶら幅の長さにもこだわる(4センチ以上で一般より広め)。

女性とは逆で、男性のお客様は大きめの服を着ようとする。股下も長め。
カッコはよくない。サイズは小さめにして長さを調整するくらいでもいい。

そんなチマチマした調節、こだわりとは全く別次元にあるのが、「キングサイズ」だ。
「サイズは3Lか4Lか5Lか、また太ったのでわからない。着れればなんでもいい。」
…衝撃だった。
今着てる服のサイズも、自分で見ない。
「見てくんない?」と(真冬でも)汗ばんだえり首から人差し指を入れ、サイズをを覗き込んだ。
「4Lですね。」
…だんだん面白くなってくる。
面倒でもフィッティングは大事。
セール時の簡易なフィッティングルームはグラグラ揺れて倒れそう。
危ないところだった。ヒヤヒヤする。
エストの位置は、お腹の上か下かを必ず確認。
私が両手をMAXに広げてちょうど120センチ。
メジャーで測ると、どう見ても抱き付いているようにしか見えないが、
必死で首を曲げ片目でサイズを確認。
「120センチですね。」ギリギリだ。
…なんだか楽しくなってきた。

キングサイズは楽しくてしょうがない。
いつも会社で男性ファッション雑誌をボッ〜と見ていたが、
キングサイズの販売応援だけは急にイキイキしていたらしい。
笑いがとまらなかった。

当然デブ専の疑いをかけられる。
デブ専のケはあった。