際立つお客様(1)

入金処理をしていて見覚えのある名前を発見、
思わずギャッ、と声をあげる。
10年ほど前に対応したが、忘れるはずがない。
今回は半年遅れのお支払い。

以前はお客様対応をしていた。
一次対応、二次対応ができなかったものがまわってくる。
毎日刺激がいっぱいだ。
担当はお金関連。
ちょっとやそっとじゃ驚かない。
「夫の乗った船が転覆した。」
「今、ドンパチやってきた。」
「先月刑務所から出てきたんや。」
何を言われても「そうでしたか」
とすぐに切り替え。
下手に出るふりをして上手に行かなければならない。
商品代金(無利息)は払ってもらう。当たり前だ。
抗争なんて知ったこっちゃない。

時折犯罪者の名前も見受けられるが、
世の中を賑わした極悪人は、
いたって善良にお支払いをいただき、対応不要だ。
本当に悪い人は土俵が違うようだ。

その人は同居人の話、友人の話、代理人などとめどもなく話すが、
聞いているうちに混乱してくる。
全部同一人物ではないか?
という結論に達した。
事実、調べると「多重人格のカリスマ」らしいことが判明。
巧みな話術に、引き込まれて、頭がだんだんおかしくなりそうになるのだ。
商品が破れていた、と切り刻んで返品してきたこともある。
全部自作自演だ。

ひさびさに登録を確認すると、本人は死んだと代理人から連絡との記録。
本人は名前をカタカナに変えて生き返ったようだ。
前部署の担当者に連絡。
「◯◯様は最強です。死んでいません」