たけし

小学生の頃、近所の同級生の「たけし」がよく家に来ていた。
たけしの自転車は、幼稚園児が乗るような小ささで、みな知っていた。
その自転車が、いつもうちの家の前にあるので、
「あいつ女子の家で遊んでいる」
と、たけしはバカにされていた。
でも、たけしはすぐに妹(6才下)と遊ぶようになった。
「私と遊んでないよ、妹と遊んでる」
と言うと、たけしはもっとバカにされた。

たけしがうちの犬を外に放したことがある。
セントバーナードなので、逃亡すると大騒ぎになる。
父が「なんで逃がしたんだ!」と怒鳴ると、
たけしは泣いて「だって『出たい、出たい』って言っていたから」と言い、
「犬がしゃべるか!」とまた怒られた。

たけしは勉強が極端にできなかった。
一生懸命努力しても、何も覚えられなかった。
どう勉強したらいいのかもわからず、
英語の辞書をAから読みだして覚えようとしたが、
一年たってもCのあたりだった。

クラスで誰かがオナラをした。
「お前だろ」とたけしはいつも言われる。
「オレじゃない!オレじゃない!」
ムキになって言い張る。
「やってないって言ってんじゃん!」
私はたけしをかばう。
ほとぼりがさめた頃、たけしは
「ちょっとくらいいいだろ」
と、うわずった声でつぶやいてしまった。
「やっぱお前だ!」とまた言われる。
「黙ってりゃいいじゃん、バカじゃないの?!」(私)

たけしはバカだった。学ばなかった。
そんな調子でいつもイジメられていた。
なぜイジメられれるのか、
どうしたらイジメられないかを、
何回教えてもダメだった。

たけしの家にも何度か行った。
ひどく散らかった部屋で、TVで「ムーミン」を見たりした。

そんな家もいつしか地上げ屋によって立ち退かれ、
たけしもどこに行ったのかわからなくなった。
どこかでまたイジメらてないだろうか。
時々、ふと心配になる。