イイヒト

周囲を見渡せば、いい人ばかり。
いい人すぎる言動で理解に苦しむことすらある。

イイヒトは、ドアの中にいる。
自動ドアやエレベーターで、今から来る人はもちろん、
来るかもしれない人まで待つ。
ドアが閉まらないように。

ドアが開き、私が歩き出しても、
イイヒトは誰かのためにドアの中でニコニコと立ち止まってるのだ。
イイヒトを待つ。
もう私の眉間のシワも見えない距離。

ドアの中の待ち時間は5秒以内が分岐点だと思っていた。
イイヒトは十秒以上待つ。

来るかも知れない人が方向転換する場合もある。
エレベーターを使わずに階段に行ってしまう人もいる。
待たされたエレベーターなどは、「ドアが閉まります!」と、やや怒り気味で言ったりする。

イイヒトはそんなことでイチイチ気に障ることもない。
エレベーターはみなニコやかに乗るものなのだ。
私は「他のフロアの人も待たせてしまう」と言って急がせるふりをして、
本当は我れ先にとエレベーターを乗り降りしたい。
そんな思考なども思いもつかないだろう。

腹が立つほどいい人だ。