結納


とうとう妹の結納に同行、無事に済んで万感の思いでいっぱいだ。
うかい亭のご馳走も万感。
6月9日はいい日になった。

数ヶ月前、「是非結納を」
そんな有難いお話を母は断固拒否。
双方譲らず、妹は路頭に迷っていた。
父が亡くなり母一人では心細いので結納も遠慮したい、という可哀想な人という演出も失敗。
母は心細くも可哀想でもなかった。
母は異端であり正統を嫌悪する。
母を他人に紹介しなければならない苦悩は、理解されにくいだろう。

そもそも結納ってなんだろう?
姉は「プレゼント交換みたいなもの」と言う。
ネット検索し、そこで見えて来た懐柔策は一つしかなかった。
母には結納と言わずに結納を決行する。
顔合わせ食事会と銘打ち、結納は略式にしてもらう。
正式な結納でも約20分、略式では5分程で済み、あっという間に終わるものらしい。
母には記念品を交換すると言って受けとってもらい、
妹が持ち帰るので問題ない。
母も実は結納がどんなものか知らないのだ。

私は、母が逃げ出さないように監視し、母の妄言をできる限り制止して和やかに滞りなく結納を済ませるために同行する。

場所は東京タワー下の「とうふ屋うかい」に決定。
赤羽橋で待ち合わせ、の数分前、やはり一言「結納風なことする」と言ったほうがいいと打合せ(メール)。
母は「食事会」にノコノコと現れた。
妹は「うかい」までの道すがら「ちょっと結納チックなことするから」「記念品とか指輪と時計を交換するだけ」と言う。
母はあまり聞いていないようだったが、
私も「指輪なくさないでね(自分は紛失)」などと言っているうちに到着。

先方はマナー通り先に到着され、品行方正そうに佇んでおられた。
私の出席により彼のお姉さんも参加し、食事会の様相。
前日に結納金が省略(後送)されることになり、私はすっかり安心しきっていた。
それでも、あちらのお母さんが「さあ始めましょうか」と言って席を立ち、
母が「なあに?写真撮影するの?」と言った時は緊張が走った。
すかさず「結納チックなことするから」と妹はチックチック言いながら母を唆して並んで座る。
母は結納の品の包んだ紙だとか布だとかに目をうばわれ、
「まぁ素敵な刺繍…姉達はこんなことも何もしないで勝手に結婚してしまって…
主人も反対しても、もう間に合いませんわ」などとペラペラ喋っているうちに、5分ほどで無事終了。

母は異端ではなかった。もっと言うなら正当でもなかった。
私達と同様、ただ無知であった。

母もあまり気付かないうちに、
初の結納は滞りなく終わった。

それからお目当たい料理が次々にやってきた。

豆腐も炭火焼肉もみなトロトロととろけていく。
外には水車が見え、橋がかかり、どこから来たのかスズメや赤トンボまでやってきた。
ししおどしは見えないが、代わりに?竹酒なども飲む。

母が「主人は鼻血を出して仕事を早退し、こんな(30センチほど)チリ紙を鼻に詰めて帰ってくるような人でした」と言えば、
私が「いや、このくらい(10センチ)です」
などと訂正。
母が自慢話をして、
「お姫様だったんですね〜」と言われれば、
「今はこんなになってしまいましたが」と付け加える。
「お姫様が、魔女になってしまいました」と言うことは控える。

終始笑の絶えない和やかな食事会(結納)となった。


お土産の麩饅頭が美味しいったらない。