毒グモ

絶対に認めたくないが、
自分が嫌いな人は自分に似ているというように、
自分がこの世で一番憎むものは、
自分そのものの姿であると聞いたことがある。

(上の)妹はゴキブリへの憎悪が尋常ではないが、
いつも鼻のアタマがテカテカしていて、カサコソと行動する。

私は執着心を感じさせる虫を嫌悪しているが、
私の嫌悪する執着心は、実は私の中に潜在化か顕在化かしており、
気付かないのは自分だけかもしれないのだ。

母はクモが苦手である。
子どもの頃、弟たちにクモでイタズラされて気絶したらしい。
六本木ヒルズには、クモの像を避けて行く(おまわりさんに確認)。
「あれ、クモじゃないよ」と言ってみるが、
偶然見てしまったそれは、クモであった、と。

どんなに避けているつもりでも、どういうわけか、見てしまう、出会ってしまう。

たまたま行った保育参観の日、
こともあろうに「はらぺこあ●むし」ののジャンボ絵本(1メートル超)の読み聞かせが始まった時、私はわが身を呪いそうになった。
最後に、三次元(ぬいぐるみ)のそれが本から飛び出してきて、目を背けるしかなかった。

最近、(下の)妹が母の家でクモを発見し、殺害。
母からのメールがきた。
「虫殺しまでして下さってありがとう。
 私も誰がいつ来てもいいように、掃除しながら生きていくことにしました。
 ところで、殺した虫はどうしましたか? 怖くてなかなか2階に行けないでおります。」

母も私と同じで固有名詞が出せない。
珍しく弱っている。

妹は母が改心するかと期待するが、掃除しながら生きていくことは、母の人生を否定するも同然だ。

母は毒グモに似ている。